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四旬節第5主日ミサ説教「イエスは涙を流された」 

2020年03月28日

福音書にイエスが笑ったという描写はありませんが、だからといって、イエスは笑わなかったと結論づけることはできません。むしろ、快活に、たびたび笑っていたからこそ、イエスは笑ったと、特に記されていないのではないでしょうか。 

それに対して、イエスは泣かれたという記述は、新約聖書に3回あります。イエスは滅多に泣かれることはなかったのでしょうが、涙を流されたことは確かにあったのです。それは、ルカ福音書19章、ヨハネ福音書11章、そしてヘブライ人への手紙5章の計3箇所に記されています。 

まず、ルカ19章41節、「イエスはエルサレムに近づき、都が見えたとき、その都のために泣いた」。イエスは、愛する都エルサレム滅亡の日を思って泣きました。その後、エルサレムはローマ帝国の軍隊によって徹底的に破壊されましたが、それは紀元70年のことでした。 

そして、今日読まれたヨハネ11章35節、「イエスは涙を流された」。この節は、原文(ギリシア語)ではたった3語で成っており、聖書の中でもっとも短い節と言われていますが、私にとっては、もっとも印象的な節です。その時、イエスがなぜ涙を流されたかは、その次の36節を読むと分かります。「ユダヤ人たちは、『ごらんなさい。どんなにラザロを愛しておられたことか』と言った」とあるからです。でも、その時、ラザロの妹も、一緒に来たユダヤ人たちも泣いていたと、その前の節に記されています。イエスは、泣いている人たちと共に泣いたのです。パウロの、「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」(ローマ12・15)という箇所が思い出されます。 

もう一か所、ヘブライ人への手紙5章7節にも、「キリストは、人として生きておられたとき、深く嘆き、涙を流しながら、自分を死から救うことのできる方に、祈りと願いとを献げた」とあります。最後の晩餐の後、イエスがゲツセマネの園で祈りをささげた場面が自然と思い出されるのではないでしょうか。その時の祈りの核心が「御心のままに」にあると、共観福音書はそろって記しています(マタイ26章、マルコ14章、ルカ22章)。 

イエスは、自分のためには泣きませんでした。愛する都エルサレムに滅亡の時が来ることを思って泣き、愛する友ラザロの死を悼んで、その姉妹マリアとマルタと共に涙しました。そして、ゲツセマネの園では、自分の望みではなく、父なる神の心が行われますようにと祈りました。すべての人の救いを願うキリストの愛が、涙となってあふれたのです。そして、その愛が今日の私たちにも届いています。 

イエスは最後の晩餐の席上、弟子たちに、「私があなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい」という新しい愛の掟を残されました。それは、「私が喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣いたように、あなたがたも喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」と置き換えることができるのではないでしょうか。 

☆山本量太郎 

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